大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)278号 判決

大阪市中央区安土町2丁目3番13号

大阪国際ビル

原告

ミノルタ株式会社

同代表者代表取締役

金谷宰

同訴訟代理人弁理士

貞重和生

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

丸山亮

石井勝徳

幸長保次郎

吉野日出夫

関口博

主文

特許庁が平成4年審判第20354号事件について平成6年10月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年8月4日、名称を「フィルムパトローネ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、昭和56年特許願第88625号(昭和56年6月8日出願)からの分割出願として、特許出願(平成1年特許願第201187号)をしたが、平成4年8月28日拒絶査定を受けたので、同年10月29日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第20354号事件として審理し、平成5年9月8日、出願公告(平成5年特許出願公告第62324号)されたが、平成5年12月8日、コニカ株式会社ほか1名から特許異議の申立てがあり、特許庁は、平成6年10月4日、特許異議の申立ては理由がある旨の決定をするとともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月16日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

フィルムパトローネ内のフィルムを引出す方向に対して直角の方向に伸びた第1乃至第6のコード部をその外側面に備え、前記コード部のうち、第2乃至第6のコード部はそれぞれがフィルム感度のアペックス値の4、2、1、2/3、1/3の重みづけを有するデジタルコードパターン表示部である、各種のフィルム感度のフィルムを収容するに適したフィルムパトローネにおいて、

前記デジタルコードパターン表示部に表示されるパターンは、フィルムパトローネに収容されるフィルムのフィルム感度のアペックス値に対応して前記第1コード部に対して第2乃至第6のコード部が選択的に導通又は不導通とされ、さらに、収容されるすべての種類のフィルムのフィルム感度に対して少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されているパターンであること

を特徴とするフィルムパトローネ。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  昭和56年2月5日に行われた日本写真機工業会のための資料、55日写工第232号 昭和56年1月27日(本訴における第5号証。以下「第1引用例」という。)には、次の点が記載されている。

フィルムパトローネ内のフィルムを出す方向に対して直角の方向に伸びた第1乃至第6のコード部をその外側面に備え、コード部のうち、第2乃至第6のコード部はそれぞれフィルム感度のアペックス値の4、2、1、2/3、1/3の重みづけを有するデジタルコードパターン表示部である、各種のフィルム感度のフィルムを収容するに適したフィルムパトローネにおいて、デジタルコードパターン表示部に表示されるパターンは、フィルムパトローネに収容されるフィルム感度のアペックス値に対応して第1コード部に対して第2乃至第6のコード部が選択的に導通又は不導通とされるフィルムパトローネ。

(3)  実公昭55-31539号公報(本訴における第6号証。以下「第2引用例」という。)には、次の点が記載されている。

〈1〉 フィルムパトローネにおいて、第1~第5のコード部の第1コード部を共通の導通部とし、少なくとも第2~第5コード部のいずれかが第1コード部に導通されている点。(第6図-別紙1参照)

〈2〉 短絡接点の大きさ、形状、設ける個数は第5図(別紙1参照)の例に限定されないこと。(第4欄)

(4)  本願発明と第1引用例に記載された発明とを対比すると、両者は、次の点を除いてその構成はすべて一致する。

本願発明における、収容されるすべての種類のフィルム感度に対して少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されているパターンに対応する構成が、第1引用例に記載された発明にはない点。

(5)  相違点について検討する。

〈1〉 第2引用例には本願発明のように収容されるすべての種類のフィルム感度に対して第1コード部以外のいずれかのコード部が第1コード部に導通されているパターンがあり、さらに短絡接点の大きさ、形状、設ける個数は限定されない旨の記載もある。

〈2〉 したがって、本願発明が、そこから第2乃至第6のコード部のいずれかを第1コード部に導通するようにすることは、当業者が容易になしうることであり、それを第5、第6のいずれかのコード部に限定したとしても、対応する格別な効果があるとは認められない。

(6)  したがって、本願発明は、第1引用例によって出願前に公然知られた発明及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(4)及び(5)〈1〉は認め、同(5)〈2〉及び(6)は争う。

審決は、本願発明の技術的課題並びに構成の技術的意義及び効果を看過し、さらに、第2引用例の技術内容を誤認した結果、相違点についての判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきものである。

(1)  取消事由1(第2ないし第6のコード部のいずれかを導通させる点について)

審決は、「本願発明が、そこから第2乃至第6のコード部のいずれかを第1コード部に導通するようにすることは、当業者が容易になしうることであ」ると判断するが、誤りである。

〈1〉 第2引用例のコードパターンは、単に2進法コードとフィルム感度とを適宜対応させてフィルム感度を表示させたもので、コード部(e)ないし(h)はフィルム感度のアペックス値の重みづけを表すものではなく、本願発明のコード体系とは全く異なる。

一方、第1引用例に記載された発明は、第2コード部ないし第6コード部にそれぞれフィルム感度のアペックス値の重みづけ1、2、4、1/3、2/3が付与されており、その合計でアペックス値を表示するものであるから、第2引用例に開示された異なるコード体系の構成を適用しようとしても、両者はコード体系の相違から適用できるものではない。

また、乙第1号証の構成は、パトローネの共通電極11(共通コード部)とフィルム感度を示す電極12、12’、12’’(フィルム感度コード部)のいずれかとの導通があるときコードパターン付きのフィルムパトローネと判断し、導通がないときコードパターンが設けられてないフィルムパトローネであると判断するものであるから、コードパターンがありながら共通コード部と導通するフィルム感度コード部が1つもない場合は、コードパターンが設けられていない普通のフィルムパトローネであると誤つて判断してしまう。乙第2号証の構成は、共通コード部aとフィルム種別コード部等bないしhのいずれか1つが必ず導通しているコード部であつて、コードパターンがありながら共通コード部と導通するフィルム感度コード部が1つもないコード部に関する記載は一切ない。以上のとおり、乙第1及び第2号証にも、本願発明の課題の提示あるいは内在を示す記載は一切なく、また、課題の解決手段を示唆する記載も一切ない。

〈2〉 さらに、第1引用例の第2コード部ないし第6コード部の少なくとも1つが第1コード部に導通するパターンに修正した場合、表示されるフィルム感度のアペックス値が変化し、正確な値をカメラに入力することができない。

上記の修正は、その修正によるアペックス値の変化を、例えばカメラ側のコード読取り回路で補正して、正確な値をカメラに入力することが可能であるとき初めて採用できる修正である。

第1及び第2引用例には、アペックス値の変化を補正する手法を開示ないしは示唆するものはない。

(2)  取消事由2(第5、第6コード部に限定する点及びその効果について)

審決は、第1コード部に導通するようにするコード部を「第5、第6のいずれかのコード部に限定したとしても、対応する格別な効果があるとは認められない」と判断するが、誤りである。

〈1〉 本願発明が第1コード部に導通するコード部を少なくとも第5コード部と第6コード部のいずれかに限定した技術的意義は、フィルム感度のアペックス値の4、2、1、2/3、1/3の重みづけを有する第2ないし第6のコード部の組み合わせによつてフィルム感度を表わすコードパターンでは、表わすフィルム感度の値によつては、1/3の重みづけを有する第5コード部、2/3の重みづけを有する第6コード部が共に不導通部(空白部)となる点に着目し、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通するコードパターンを開発した点にある。

そして、その効果においても、第2コード部ないし第6コード部のうち、第5コード部と第6コード部の2つだけについて、第1コード部との導通状態を判定すれば、装填されたフィルムパトローネがコード部を設けたものか、コード部を設けていないものかを判別することができるから、カメラ内部での信号処理を迅速に行え、直ちにフィルム感度の手動設定を促すことができるという顕著な効果を発揮するものである。

〈2〉 すなわち、参考図1(別紙3参照)に示すコードパターンは、第16図(別紙1参照)に示す従来のコードパターンにおいて、フィルム感度の値によってはアペックス値の1/3、2/3の重みを有する第5、第6コード部が共に不導通部となるとき、第5、第6コード部を共に導通部に修正し、表示される全フィルム感度範囲において、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通するように構成したものである(甲第2号証36頁19行ないし37頁5行)。このコードパターンによれば、ASA25のフィルム感度は、第5、第6コード部が共に導通部となるパターンで表示され、また、従来のコードパターンでは第5、第6コード部が共に不導通部となるASA50、100、200、400、800、1600、及び3200のフィルム感度も、第5、第6コード部が共に導通部となるパターンで表示される。

参考図2(別紙4参照)に示すコードパターンは、第16図に示す従来のコード部に重みづけ1/3を加え、第5コード部及び第6コード部については繰上げ処理を禁止し、表示される全フィルム感度範囲において、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通するように構成したものである(甲第2号証39頁7行ないし13行参照)。

参考図3(別紙5参照)に示すコードパターンは、第16図に示す従来のコード部の、導通部を不導通部に、不導通部を導通部に修正し、表示される全フィルム感度範囲において、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通するように構成したものである(甲第2号証39頁13行ないし19行参照)。

参考図1ないし3に示すコードパターンは、いずれも第5、第6コード部の少なくとも1つが導通部となるから、カメラ側に設置されるコード読取り回路により、第5及び第6コード部の2つだけについて、第1コード部との導通状態を判定すれば、装填されたフィルムパトローネがコード部を設けたものか、コード部を設けていないものかを判別することができる。

さらに、参考図1ないし3に示すコードパターンの変更によって生じたアペックス値の変化は、カメラ側に設置されるコード読取回路で補正することができる。

すなわち、参考図1に示すコードパターンの場合には、カメラ側に設置されたコード読取り回路は本願明細書の第18図(別紙2参照)に示す回路が使用され、コード読取り回路により第5コード部、第6コード部の両方が共に導通していると検出されたときは、第5コード部の重み“1/3”と第6コード部の重み“2/3”とは加算されることなく、フィルム感度が正確にカメラに入力されるようにしている(甲第2号証37頁6行ないし38頁3行)。

参考図2に示すコードパターンの場合には、第17図(別紙2参照)の読取り回路において抵抗R14をSv=2/3に対応した値に設定することで、加えた1/3の重みを補正(減算)し、フィルム感度が正確にカメラに入力されるようにしている(同39頁7行ないし13行)。

さらに、参考図3に示すコードパターンでは、第17図の読取り回路において、インバータIN4~IN0を介さない信号を陣用することで、フィルム感度が正確にカメラに入力されるようにしている(同39頁13行ないし16行)。

フィルムパトローネがコード部を設けたものか、コード部を設けていないものかを判別し、かつ、アペックス値の変化を補正することは、第2ないし第4コード部を導通部に修正することでは行えない。すなわち、第2ないし第4コード部のいずれか1つ以上を導通部に修正すると、本来不導通部となるものをコード部付きフィルムパトローネであることを示すべく修正したものなのか、あるいは実際にフィルム感度の重みを表示している導通部なのかの判別ができず、カメラ側に設置されたコード読取り回路による補正が不可能となり(参考図1)、又はフィルム感度を表示しきれず、コード読取り回路による補正が不可能となる(参考図2、3)。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は争い、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉 フィルムパトローネにコード部が設けてない場合と、それが設けられているが第1コード部と導通する第2コード部ないし第6コード部が1つもないコードパターンの場合とを識別することは、従来提案されていたコードパターンのコード部をフィルムパトローネに設けてあるか否かを判別するための必要から導き出された1つの課題ではある。けれども、その判別のためには、あえて本願発明の課題を設定しなくても、従来提案されていたコードパターンに対して有効な別の方法が存在する。つまりフィルムパトローネにコード部が設けてない場合と、それが設けられている場合とをカメラ側の工夫によって識別すればいいのである。その識別をもっぱらカメラ側のみによって対処するか、本願発明の実施例のようにさらにフィルムパトローネ側のコード付与を修正するかは、当業者が任意に選択できる設計上の事項である。

乙第1号証(特開昭53-51736号公報)には、コード付きフィルムパトローネとコードのないフィルムパトローネの区別を自動的にカメラによって行うようにしたものが記載されている。また、乙第2号証(特開昭52-2522号公報)には、カメラ内にコード付きのパトローネが入っているときに、必ずフィルム種別の表示をすることができ、結果としてコード部のないものを判別することができるフィルム種別表示装置が記載されている。

したがって、第2引用例に示されたコードパターンであっても、そうした設計上の配慮により十分にパトローネ上のコードパターンの有無は識別され得るのであるから、本願発明の、従来提案されていたコードパターンのコード部をフィルムパトローネに設けてあるか否かを判別するとの技術的課題は存在していたと考えることができるものである。

また、こうした課題に対応する周知技術を前提に、第1、第2引用例のものを考慮すると、従来のコードシステムとの連続性を確保することに格別の困難性を伴うものとは考えられない。

〈2〉 第2引用例は短絡接点の配列の仕方についての考案で、その効果について、例えば、「パトローネに設ける感度設定用の複数個の短絡接点22をコード化することにより、短絡接点22及びカメラ側の電気的接触子6の個数を従来のものより非常に少くすることが可能」とコード化一般のもたらす効果が記載されている(甲第6号証5欄10行ないし13行)。このことからも明かなように、第2引用例に示されている「コード化」は広い意味が想定されている。それは実施例中にある2進法はいうに及ばず、およそ考えられるすべてのコード化法を対象にしているといってよい。したがって、コード体系の相違から、第2引用例のコード部の構成を第1引用例のコード部に適用できないと考えることはできない。

〈3〉 第1引用例のコード部に第2引用例の構成手段を適用するに当たって、それを単にそのまま適用するのではなく、なんらかの修正が必要となることは、出願時の技術常識を踏まえれば当然に予測されるところである。そして第2コード部以下と第1コード部との間に不導通が生じないようにするという第2引用例の課題を維持しながら、その第1引用例への適用を想到することは、格別困難ではない。

そして、もしアペックス値の修正によっても読取り可能とする特定の技術が発明の構成に欠くことができないのであれば、それは本来、特許請求の範囲に組み入れられていなければならなかったのである。

(2)  取消事由2について

〈1〉 フィルムパトローネにコード部が設けてない場合と、それが設けられているが第1コード部と導通する第2コード部ないし第6コード部が1つもないコードパターンの場合とを識別するとの本願発明の課題は、出願当初の明細書に記載され後の補正で削除された第2の発明のように、導通されるのが第2コード部ないし第6コード部の少なくとも1つというものでも可能である。

さらに、本願明細書には、補正後も「他のコード付けの改良案としてASA25の場合のみ(5)、(6)の部分をともに導通部とし、他のコード付けは第16図で示した従来と同じコード付けにするものが考えられる。」(甲第2号証38頁8行ないし11行)との記載がある。これは「収容されるすべての種類のフィルム感度に対して少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されている」とする本願発明の特許請求の範囲の記載と明らかに矛盾する。この矛盾は、上記特許請求の範囲の記載に対応する構成に、特有、格別な効果が期待されてはいないことを示しているものである。

このように、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通されているとした点の効果は格別であるとは認められない。

〈2〉 原告は、第5及び第6コード部以外のコード部を第1コード部に導通するように修正したのでは、読取り回路によるフィルム感度のアペックス値を正確にカメラに入力することができないと主張する。しかし、このことは、本願明細書中に明示されてはおらず、第5、第6コード部に限定したことの意義と効果を強調したいがために、あえてする主張といわざるをえない。結局、第5及び第6コード部を第1コード部に導通するように修正したことに対応する効果は、第2コード部ないし第6コード部のすべてと第1コード部との導通状態を判断しなくてもよいという、当然の効果に帰着し、それがカメラ内部での信号処理の時間の短縮につながることは、当業者であれば、当然に予測できる範囲である。

原告が見いだしたと主張する本願明細書に記載されたアペックスによるコードの修正方法の具体例は、特許請求の範囲とは関係がなく、しかも、これに限ると断定することはできない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(第1引用例の記載事項の認定)、同(3)(第2引用例の記載事項の認定)、同(4)(相違点、一致点の認定)及び(5)〈1〉は、当事者間に争いがない。

2  甲第2及び第4号証によれば、本願明細書には、本願発明の課題、構成、効果等として、次の記載があることが認められる。

(1)  「[産業上の利用分野]この発明はフイルム感度情報を電気的に読取ることのできるコード部を外側面に設けたフィルムパトローネに関する。

[従来の技術]フィルムパトローネ外側面に、収容されているフィルムのフィルム感度を示すコード部を設けたものが提案されている。自動露出制御機構を設けたカメラでは、使用するフィルムのフィルム感度を入力する必要があるが、フィルムパトローネ外側面に、収容されているフィルムのフィルム感度を示すコード部が設けられているときは、カメラ側にコード読取り手段を設けることによつて自動的にフィルム感度情報を得ることができ、外部からフィルム感度情報を入力する必要がなくなる。

[発明が解決しようとする課題]しかしながら、フィルムパトローネによつては収容されているフィルムのフィルム感度を示すコード部を設けていないものもある。この問題への対処としては、カメラに手動操作によつてフィルム感度情報を入力する手段を設けるほか、カメラに装填されたフィルムパトローネにコード部が設けられているか否かを判別し、コード部が設けられているときはそのコード部からフィルム感度情報を入力し、コード部が設けられていないときは手動操作入力手段からフィルム感度情報の入力を促す手段が必要になる。従来提案されているコードパターンのフィルム感度とコードとの関係は第16図(別紙2参照)に示すとおりで、縦にASA規格によるフィルム感度を、横にコードパターンを示し、その中で2~5欄はフィルム感度を示す第1コード部、1欄は共通コードの第2コード部を示している。また、斜線部は導電部、白色部は非導電部を示し、第1コード部と第2コード部との導通状態を検出してコード部を読取るようになっている。このコードパターンにおいては、フィルム感度ASA25は第1コード部に全く導電部がなく、第2コード部との導通が得られない。このことは第1ゴード部のいずれかと第2コード部との導通状態を検出してフィルムパトローネにコード部か設けられているか否かを判別するとき、ASA25のフィルム感度を示すコード部付きのフィルムパトローネはコード部の無いフィルムパトローネと判別できないことになる。この発明は上記課題を解決することを自的とするものである。」(甲第2号証3頁4行ないし5頁11行)

(2)  「第16図(別紙2参照)に示す従来提案されているコード付けを行なった場合には、ASA25では(2)~(6)の部分がすべて絶縁層となって、情報が設けられているパトローネと設けられてないパトローネとを判別するには第17図(別紙2参照)に示すように、(1)の部分に接触するスイッチを二つ(S1)、(S10)設ける必要があり、スペース的に無理が生じる。そこで、第16図のコード付けの改良として、ASA25、50、100、200、400、800、1600、3200の場合は第16図のコード部(5)と(6)をともに導通部とするよう変更したコード付けが提案される。第18図(別紙2参照)はこのようにコード付けしたパトローネからのフィルム感度を読み取る回路である。

第18図において、フィルム感度の情報が設けられたパトローネであれば、上述のコード付けを行なえば(5)、(6)の部分の少なくとも1つは導通部となり、インバータ(IN0)、(IN1)の少なくとも1つは、“High”となる。従って、オア回路(OR1)の出力が“High”となり、この信号がフィルム感度情報を設けたパトローネであることを示す信号となる。一方、インバータ(IN1)、(IN0)がともに、“High”の信号を出力するときはナンド回路(NA1)の出力は、“Low”になってアンド回路(AN3)、(AN4)の出力はともに、“Low”になり、インバータ(IN1)、(IN0)のどちらか一方の出力が“Low”であればナンド回路(NA1)の出力は“High”になってアンド回路(AN4)、(AN3)の出力はインバータ(IN1)、(IN0)と同じ信号が出力される。従って、第17図のインバータ(IN4)~(IN0)からのデータと同じデータがインバータ(IN4)~(IN2)とアンド回路(AN4)、(AN3)から得られることになる。このようにコード付けの改良と第18図の回路により、第17図と同じ機能が得られるにもかかわらず、フィルム感度情報を設けたパトローネかどうかを判別するためのスイッチ(S10)が不用となる。他のコード付けの改良案としてASA25の場合のみ(5)、(6)の部分をともに導通部とし、他のコード付けは第16図で示した従来と同じコード付けにするものが考えられる。第19図はこのようにコード付けしたパトローネからのフィルム感度を読み取る回路である。第19図でASA25で(5)、(6)の部分がともに導通部であればナンド回路(NA1)の出力は“Low”になって、アンド回路(AN3)、(AN4)の出力はともに“Low”となる。一方ASA25以外ではインバータ(IN1)、(IN0)の出力の両方が、“High”になることはなくナンド回路(NA1)の出力は必らず“High”になって、アンド回路(AN4)、(AN3)からはインバータ(IN1)、(IN0)の出力がそのまま出力される。さらに、上述のコード付けを行なえば、感度情報を設けたパトローネを装着するとインバータ(IN4)~(IN0)の少なくとも一つは“High”になっているのでオア回路(OR2)の出力は“High”になって、フィルム感度が自動設定されることを示す信号になる。

この他に、コード付けの改良方法としては、第16図のコード付けに1/3を加えたコード付けにして、ASA25のときは“00001”、ASA32では“00010”、ASA400では“10001”、ASA3200では“11101”、といったデータが出力され、第17図の抵抗(R14)をSv=2/3に対応した値にすればよい。さらには、第16図のコード部(2)~(6)の部分の導通部を非導通部に、非導通部を導通部におきかえて、信号はインバータ(IN4)~(IN0)を介さない信号を用いるようにする。このように変形した場合も、コード部(2)~(6)の5ビットの信号のオア出力をとれば、フィルム感度が自動設定されているかどうかの判別信号が得られる。」(甲第2号証36頁13行ないし39頁19行)

(3)  「[発明の効果]以上説明したように、この発明のフィルム感度を示すコードパターンが表示されたフィルムパトローネによれば、カメラ側に設けたコードパタン検出装置によりパトローネに装填されたフィルムの感度を自動的に検出できるばかりでなく、第1コード部と導通する第5コード部、第6コード部のいずれもが無いとき、コード部を備えたフィルムパトローネでないと判別することができる。」(甲第2号証41頁下から3行ないし42頁6行、甲第4号証2頁12行ないし16行)

3  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  本願発明の課題は、前記2(1)に説示のとおりであり、本願発明は、従来のコードパターン(別紙2第16図)では、ASA25のフィルム感度を表わすコードは第2ないし第6コード部のいずれにも導通部がないため、第1コード部と第2ないし第6コード部との導通状態の検出からは、コード部がないフィルムパトローネと従来のコードパターンでのコード部付きのフィルムパトローネとの識別ができないとの問題点を解決するため、新たなコードパターンをフィルムパトローネに表示するようにしたものであると認められる。

〈2〉  そして、第2コード部ないし第6コード部のいずれかを第1コード部に導通するようにすることは、当業者が容易になし得ることと認められる。

すなわち、前記1に説示の事実(審決の理由の要点(3))によれば、第2引用例に記載された発明は、短絡接点の個数は限定されていないから6個でもよく、第1コード部と第2ないし第6コード部のいずれかが導通するコードパターンを備えているもの(別紙1第6図参照)であり、このようなコードパターンを備えている以上、コード部がないフィルムパトローネと、第1コード部と第2ないし第6コード部のいずれかが導通するコードパターンを備えているフィルムパトローネとを識別することは可能であると認められる。

さらに、乙第1号証によれば、特開昭53-51736号公報には、オートフィルムのフィルムパトローネ(コードパターン付きフィルムパトローネ)をカメラに装填すると、パトローネ上のコード部である共通電極11及びフィルム感度電極12が導通することになり、フィルムの空送り中に発光ダイオードLED111が点燈し、これによって使用者はオートフィルム使用中であることを視認できること(6頁左下欄10行ないし7頁左上欄9行)、及び、普通のフィルム(コードパターンがないフィルムパトローネ)をカメラに装填したときは、LED111は点燈せず、普通のフィルム使用中であることが視認されること(8頁右上欄3行ないし15行)が記載されており、乙第2号証によれば、特開昭52-2522号公報には、「このような構成において接触子4の各片を第1図に示すパトローネ1の導電部分2に対向して接触させスイッチ6を閉じると、導電部分2に接触している接触子の回路が導通し、その回路の発光素子が発光する。発光素子8のそれぞれにフィルム識別を表示しておくことにより、発光箇所を見てパトローネ1に入っているフィルム種別を判定することができる。」(2頁左下欄5行ないし15行)、「カメラ内にフィルムが入っているときは、必ずフィルム種別の表示をすることができるので、カメラ内のフィルム有無の判定にも利用でき、不用意にカメラの裏ぶたを開放してしまうことがない」(4頁右上欄11行ないし15行)ことが記載されていることが認められ、乙第1及び第2号証に記載されたものには、第2引用例に記載されたものと同様に、共通コード部に対して少なくとも一つは導通するコード部を持ったコード体系が記載されていると認められる。

そうすると、フィルム感度を表現するためのコードシステムとして、共通コードに対して少なくとも1つは導通するコードシステムはごく普通のものであり周知のものと認められる。

したがって、本願発明の課題を解決するために、フィルム感度のアペックス値の4、2、1、2/3、1/3の重みづけを有する第2ないし第6のコード部の組み合わせによってフィルム感度を表わすコードパターンにおいても、第1コード部に対して第2ないし第6コード部のいずれか少なくとも1つは導通するコードパターンは、第2引用例並びに乙第1及び第2号証に記載された発明が本願発明と同様の課題を有するか否かにかかわらず、課題解決のための選択肢の一つとして当業者ならば当然に想到することができるものにすぎず、このコードパターンを採用するに困難はないと認められ、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

〈3〉  原告は、第1引用例に記載された発明と第2引用例に記載された発明とはコード体系が異なるから、第1引用例に記載された発明に第2引用例に記載された発明を適用することはできない、たとえ適用したとしても、フィルム感度のアペックス値が変化し、正確な値をカメラに入力することができない旨主張する。しかしながら、甲第6号証によれば、第2引用例明細書には、「パトローネに設ける感度設定用の複数個の短絡接点22をコード化することにより、短絡接点22及びカメラ側の電気接触子6の個数を従来のものより非常に少くすることが可能であり」(5欄10行ないし13行)、「第6図(別紙1参照)の例は短絡接点22の配列方法を2進法を応用してコード化した15種類のASA感度について示したもので」(3欄34行ないし36行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、甲第6号証には、コード化により短絡接点の数を少なくすることが示され、第6図に示された2進法の例は飽くまで一実施例にすぎないことが認められる。さらに、アペックス値の変化の補正の点も、前記2(2)で説示した、第16図(別紙2参照)のコード付けに1/3を加えたコード付けにしたものを、第17図(別紙2参照)の抵抗(R14)をSv=2/3に対応した値にすることで補正することが可能である程度のことは当業者が容易に想到できるものと認められる。よって、この点の原告の主張は採用できない。

〈4〉  したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

〈1〉  原告は、本願発明が第1コード部に導通するコード部を少なくとも第5コード部と第6コード部のいずれかに限定した技術的意義は、第5コード部と第6コード部以外のコード部(第2コード部ないし第4コード部)を第1コード部に導通するように修正したのでは、読取り回路によるフィルム感度のアペックス値の補正が不可能で、アペックス値を正確にカメラに入力することができないことにあると主張する。

しかしながら、前記(1)〈3〉に説示した、第16図のコード付けに1/3を加えたコード付けにしたものを、第17図の抵抗(R14)をSv=2/3に対応した値にすることで補正することが可能であるとの例から明らかなように、読取り回路によるフィルム感度のアペックス値を正確にカメラに入力するためには、第1コード部と第2ないし第6コード部のすべての導通の有無を検知する限り、第1コード部に導通するコード部を第5コード部と第6コード部に限定する必要ないものである。原告の主張は、本願発明の要旨が原告の挙げる参考例1に限られることを前提にする主張にすぎないと認められる。よって、この点の原告の主張は採用できない。

〈2〉(a)  前記2(2)に説示の事実によれば、本願発明は、フイルム感度のアペックス値の4、2、1、2/3、1/3の重みづけを有する第2ないし第6のコード部の組み合わせによつてフィルム感度を表わすコードパターンでは、表わすフィルム感度の値によつては、1/3の重みづけを有する第5コード部、2/3の重みづけを有する第6コード部が共に不導通部(空白部)となる点に着目し、少なくとも第5、第6コード部のいずれかが第1コード部に導通するコードパターンを開発したものである。この構成が、第1及び第2引用例に開示又は示唆されていると認めることはできない。

そして、本願発明は、上記構成により、第2コード部ないし第6コード部のうち第5コード部と第6コード部の2つだけについて第1コード部との導通状態を判定すれば、装填されたフィルムパトローネがコード部を設けたものか、コード部を設けていないものかを判別することができ、カメラ内部での信号処理を迅速に行え、直ちにフィルム感度の自動設定を促すことができるという効果を奏するものと認められる。

(b)  被告は、本願明細書中の「他のコード付けの改良案としてASA25の場合のみ(5)、(6)の部分をともに導通部とし、他のコード付けは第16図で示した従来と同じコード付けにするものが考えられる。」(甲第2号証38頁8行ないし11行)との記載は「収容されるすべての種類のフィルム感度に対して少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されている」とする本願発明の特許請求の範囲の記載と明らかに矛盾し、この矛盾は、上記特許請求の範囲の記載に対応する構成に格別な効果が期待されてはいないことを示しているものである旨主張する。しかしながら、甲第2及び第4号証によれば、本願の当初明細書(甲第2号証)には、「収容されるすべての種類のフィルムのフィルム感度に対して第2コード部乃至第6コード部の少なくとも1つが第1コード部に導通されているパターンであること」を要件とする特許請求の範囲第2項が記載されていたが、この第2項は平成6年6月15日付け手続補正書(甲第4号証)により削除されたことが認められる。そうすると、被告が指摘する「他のコード付けの改良案としてASA25の場合のみ(5)、(6)の部分をともに導通部とし、他のコード付けは第16図で示した従来と同じコード付けにするものが考えられる。」との記載が上記削除された特許請求の範囲に対応する記載であり、本願発明の特許請求の範囲に対応するものでないことは、本願明細書に接する当業者にとって明らかであると認められるから、「他のコード付けの改良案としてASA25の場合のみ(5)、(6)の部分をともに導通部とし、他のコード付けは第16図で示した従来と同じコード付けにするものが考えられる。」との記載が本願明細書に残っていることを根拠として、「少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されている」とする特許請求の範囲の記載に対応する構成に格別な効果が期待されてはいないと認めることはできないといわなければならない。

また、被告は、参考例1ないし3(別紙3ないし5参照)は本願発明の特許請求の範囲とは関係がなく、しかも、これに限ると断定することはできないと主張する。しかしながら、参考例1は、本願明細書に記載された構成(甲第2号証36頁19行ないし37頁5行)そのものであり、本願発明の特許請求の範囲を充足するものであることも明らかである。参考図2に示すコードパターンは、本願明細書に記載された構成(甲第2号証39頁7行ないし13行)そのものではないことが認められるが、「少なくとも第5コード部と第6コード部とのいずれかが第1コード部に導通されているパターンであること」との本願発明の特許請求の範囲の記載を念頭において上記本願明細書の記載を見れば、参考例2は本願明細書の上記部分に接する当業者にとって自明のものであると認められる。参考図3に示すコードパターンは、本願明細書(甲第2号証39頁13行ないし19行)に記載のコードパターンであると認められるが、第5及び第6コード部だけについて第1コード部との導通状態を判定することの直接の記載はない。しかし、カメラ側に設置されるコード読取り回路により第5及び第6コード部の2つだけについて第1コード部との導通状態を判定する構成を付加する点は、本願明細書の上記部分に接する当業者にとって自明のことであると認められる。また、被告は、本願発明の特許請求の範囲の要件を満たすが、容易に推考できたとする例を挙げるものではない。よって、この点の被告の主張は採用できない。

〈3〉  したがって、第1コード部に導通するようにするコード部を「第5、第6のいずれかのコード部に限定したとしても、対応する格別な効果があるとは認められない」との審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由2は理由がある。

4  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

注:上記のコード部で表わされる値は読取り回路の出力を指す。

アペツクス値は上記コード部で表わされる値に3を加える。

別紙4

〈省略〉

注:上記のコード部で表わされる値は読取り回路の出力を指す。

アペツクス値は上記コード部で表わされる値に3を加える。

別紙5

〈省略〉

注:上記のコード部で表わされる値は読取り回路の出力を指す。

アペツクス値は上記コード部で表わされる値に3を加える。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例